こうして彼女は世界の境界線を見た  何が起こっているのか、何をしたのか、何がどうなって今の状態に結びついたのか、わからない。ただ、硝煙のにおいと血のにおいが混じると吐き気を催すのだということははっきりと理解できた。胃を逆流してきたものを抑え込んで、三浦ハルはふらりふらりと後ずさる。においはまだ消えない。それどころか、口から、手から、耳から、ありとあらゆる身体の器官から染み込んでいくように思える。においと一緒にどす黒いものがいっぺんに流れ込んでくるイメージに、生理的な涙が出た。情けないことに身体まで震えてくる。だめだ。いまは。こんなところでたちどまっているひまなんて。
 それでもとうとう足から力が抜けていく感覚がして、あ、倒れるなと思った瞬間に誰かに抱きとめられた。ぼやけた視界で顔は見えない。それでもハルには、その腕の持ち主がはっきりとわかる。わかると同時に涙が出た。情けないのと、嬉しいのと、ごちゃごちゃした感情が目の奥からぽろぽろと零れる。
「ツナさん、ツナさん」
 たまらず名を呼ぶ。沢田綱吉はやさしくハルの背を撫でる。まるでこどもに対するようなやさしい感触に、また涙が溢れた。何度瞬きをして掃っても、邪魔な水滴は次から次に溢れてくる。こどもというよりも、乳児のようだと思って心の中で苦笑した。綱吉は何度も声をかけてくれる。だいじょうぶだよ、と。何度も。その声にさそわれてか、手の中からようやく拳銃が抜け落ちる。鉄の塊が床に到達する音が、つい先程引き金を引いたときのそれよりもずっと重々しくて、なんだか可笑しい。
「ごめんなさい。ごめんなさい、ツナさん。ハルはわかっているつもりでした」
 この世界がどういうものなのか。銃とはなんのためにあるのか。一丁前にわかっているつもりで、実はわかっていなかった。綱吉の傍にいられることが嬉しくて、マフィアの一員として、自分にもできることがまだあるはずだとすっかり思い込んでいた。その結果がこれだ。人をひとり殺しただけでこんなにも怯える自分がいる。とんだ足手まといだ。穴があったら今すぐに飛び込んで消えてしまいたい。
「謝らなくていいよ、ハル。こうしてちゃんと泣いてくれるハルがいるから、俺たちは大丈夫なんだよ」
 綱吉の、まるで自分自身に言い聞かせているような口調に、ハルは気づかない。やさしい声音にまた涙が溢れてきて、ごめんなさいを何度も繰り返す。




REBORN! || ハルと綱吉