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がたごとと心地良く揺れる列車のボックス席から、外界を見るともなしに眺める。スイスの美しい景観が途切れることなく流れるいつもの風景に、少女は薄く微笑んだ。 私はもういつからここにいるのかしら。 チューリッヒへ向かう筈の列車は、しかし止まることなく永遠に同じスピードで走り続けている。乗客は少女以外誰もいない。隣に座っていた筈の彼も、今はここにはいない。まるで少女だけが切り取られ、縫い付けられたかのように、未だにこのボックス席から離れることが出来ないでいる。 窓の外では少女が目を閉じるその最後の瞬間に目に焼き付けた光景が、色あせることなく広がっている。何度も繰り返し見た筈のそれは、しかしいつまで経っても見飽きることなく、少女を楽しませた。 彼も同じように美しいと感じたかしら。 ふとそう思って、直後にきっとそうに違いないと確信を得る。だってここは彼の中だから、彼が心に留めたものしか鮮明に残ることはない。こうやって同じ場面を幾度となく繰り返すほどに、これは彼にとって鮮やかであせることのない風景なのだ。それが良い印象であれ、悪いものであれ。どうか前者であってほしいと、少女は願う。(わかっている。本当は、違う) ねえ、私はあなたのことを今も愛しているの。あなたを蝕んでいたものを代わりに受けたのも、あなたの痛みを私が代わりに受けても構わないと、心から願ったからなのよ。勝手にそんなことをしたのは、確かに、謝らなくちゃいけないけれど。あなたを守りたい。後悔はしないと決めていたから。だけど勝手に私が私自身の魂を捧げてしまったことで、あなたが今こんなにも苦しんでいるのなら、私は。 「…ごめんね。でも、やっぱり私はこの道を選んでいたわ」 窓に白く細い指を這わせながら、少女は呟く。いくら望んだところで、少女が彼の隣に立つことはない。きっと永遠に。その道を選んだのは紛れも無い自分自身だというのに、それを思うと少女の涙は止め処なく溢れ始めた。 彼の魂は今もなおもがき苦しみ、嘆いている。徐々に心と記憶を失う呪いに蝕まれながら、2年前よりも更に過酷な戦いの中に身を投じていた。その隣に立てないことは辛い。そう思うことが単なるわがままだと知りながら、彼の隣で少しでも支えになれたらと願わずにはいられない。ああ、私はまだ彼をどうしようもないくらいに愛しているんです、神様。この想いが少しでも彼を救うことになるのなら、私は魂の全てを賭して彼に祈りを捧げます。私にはもう、それしかできないのだから。 スイスの風景も、静かな車内も、少女の涙と祈りを沈黙で受け止める。列車はまだ闇雲に走り続けている。永遠に辿り着くことのない地を目指して。 シャドウハーツU || アリス フルCG列車イベントは反則。泣かないほうが無理だわ |