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「今日は何を作ろうかなあ」 スーパーのビニール袋を片手に提げながら、呟いてみる。呟いてみて、少し待って、「シチューがいいかなあ」と再度呟いた。 「でもシチューって、つい作りすぎちゃうのよね…」 暫くの間は三食シチュー、という手もあるが、多く作ってしまったものを一人で処理するということは案外大変なことだ。後半になると飽きてくるし、そうなると食材たちがちょっと可哀想だ。 「…あ、そうだ」 神崎直は名案を思いついた。これならきっと、食材も安心してシチュー鍋に飛び込むことができるに違いない、という素晴らしい名案を。 「………で、俺のところに来たわけだ」 「はい!お裾分けです!」 はあ、と大きな溜息を吐いて、秋山深一は少女を一瞥した。もう日も沈みかけている。実質夜といってしまってもいい時間帯だというのに、(なんでこう平気で男の部屋に入れるんだこいつは…)彼女の行動にはもう呆れるしかない。直は秋山の心配を知ってか知らずか、にこにこと満面の笑みを浮かべて「お邪魔します」とパンプスを脱いでいる。小さな手に提げられたビニール袋の中には、彼女が買い込んできたたくさんの食材が、今か今かと出番を待っているようだ。 「あのさ、君」 「はい?」 「普通お裾分けっていったら、作ってから持ってくるものじゃないの?」 「そうですか?…でも、できたてのほうがおいしいじゃないですか」 台所、借りますね。そう言って、迷うことなく部屋の奥に入っていく直の背を見ながら、秋山は再び溜息を吐く。何だかんだいって、彼女がこの部屋に来ることが非日常的なものではなくなりつつある。それが直にとっていいことだとは思えないが、少なくとも秋山にとっては、日常化しつつある彼女の訪問は決して不快なものではないのだ。 「あ、そうだ秋山さん」 ビニール袋から食材を取り出していた直が、突然まっすぐにこちらを見る。「何?」一瞬だけ思考が停止したことを気取られないように、秋山は努めて平坦な声で返した。 「にんじんとか、平気ですよね?」 「……苦手なように見えるのか」 「あ、いえ、そうじゃないです、けど。一応訊いておいたほうがいいかなって」 えへへ、と誤魔化すように笑って、直はようやくシチューを作ることに専念し始めた。トントンとリズミカルな包丁の音から逃げるように(逃げる必要は、ないのに)時計を見る。もうすぐ6時20分。夜の足音が、確実に近づいている。 素敵なディナーをどうぞ (…で、こいつ、何時まで居座る気だ?) (070619) |