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「秋山さんって結構前髪長いですよね」 神崎直の突拍子もない発言には少し慣れてきたつもりではあるが、このあとに続く言葉を想像して秋山深一は若干身を引いた。髪を切ったらどうか、という提案なら別にいい。適当にあしらってやればいいだけのことだ。だがもし「私が切ってあげます」という提案だったらどうだろう。これはまずい。非常に断りにくい。こういう類の提案を断ると彼女は大抵、「どうしてですか?」と潤んだ瞳で見上げながら迫ってくるのだ。(以前も似たようなことが何度かあった。全く、勘弁してくれ) ところが今回は、秋山の予想をはるかに上回る突拍子もない提案を、直はにこやかな笑顔で口にした。 「これ、使ってください」 満面の笑みで差し出されたのはヘアピン。それも、銀色のきらきらした金属に小さな花がいくつかついているやつだ。ピンクや薄い青色をしたプラスチック(あるいはガラスかなにかかもしれないが、確認する気も起きない)の花はなんとも可愛らしく、直の黒髪にはとてもよく似合うだろう。しかし。 「……悪いけど、それは遠慮させてもらうよ」 俺にこれをつけろというのか。秋山は眩暈を感じて額に手を当てた。単なる冗談なら可愛いものだが、彼女は本気なのだ。案の定、「どうしてですか?」と首を傾げてきょとんとしている。どうしてもこうしても、お願いだからわかってくれ。頼むから世間の常識で考えてくれ。 訴えたい気持ちを抑えて、「どうしても」と溜息混じりに答えてやると、「そうですか…」と、少し寂しそうではあるが、意外にもあっさりと引き下がった。 直が手の中に収まっていたカラフルなヘアピンをポーチに戻したのを確認して、秋山はこっそり小さく息を吐く。直はそんな秋山の気を知ってか知らずか、残念そうに、実に残念そうに、ぽつりと呟いた。 「秋山さんなら、似合うと思ったのになあ…」 直後、秋山が咳き込んでしまったその原因が自分にあるとは知らず、直はポーチを放り出して「大丈夫ですか秋山さん!?」と心配そうにおろおろしていた。 flower (070620) |