自覚は、しているのです  オレンジジュースのパックにストローを差し込んだままぼんやりする年頃の娘がどんなことを考えるかなど想像もできないのだが、少なくともタルタロスだとか影人間だとかそういう剣呑なことを考えているわけではないらしいことは目元で判断できた。そういえばこいつはここのところこんなんばっかりだな、と半ば呆れながら、真田明彦は手入れしていたグローブを机の上に置いた。
「おい岳羽」
 とりあえず声をかけてみるものの返事はない。パックのストローを指先でいじりながら、相変わらず茫洋とした目で机の真ん中あたりを見ている。このまま放っておいてもいいのだが、目の前でここまでぼんやりされるとさすがに心配になってくる。「具合でも悪いのか」と声をかけようとしたのだが、タイミングよく別の声がラウンジに響いた。
「あ。岳羽」
 控えめでそれ程大きくはないその声に、岳羽ゆかりの肩は面白いくらいにびくりと跳ねた。指先で摘んでいたストローを、力の加減を間違えたのか潰してしまっている。
「な、なに?」
「この間のことなんだけど、」
「あーっ、ちょ、ストップ!ここじゃまずいから!あっちで聞くから!」
 先程までの状態がまるで嘘のように、ゆかりは慌しく立ち上がって彼の腕を勢いよく掴んだ。そのまま大股で階段まで歩いていく。ゆかりにされるがままになっている彼と一瞬視線が交錯したが、状況を把握していないのは自分も彼も同じらしく、わけがわからないといった具合の表情に、こちらもただ苦笑するしかなかった。


シトラス
(070320)