無神経にも程がある!  退屈な授業が終わった時の開放感ほど心地良いものはない、と岳羽ゆかりはしみじみ思う。次の授業までは10分間の休憩がある。何かをするには短すぎる時間ではあるが、眠気と果敢に戦った自分に心の中で拍手喝采をながら、ゆかりはとりあえず次の授業の準備をすることにした。
「ねえ、次ってなんだっけ?」
 ふと振り向いて尋ねると、授業の半分は寝ているくせに学年トップの秀才が、今まさに鞄の中から取り出した小さめのコーンパンを口にくわえたところに遭遇した。さっきは寝ていたくせに、休み時間にはきっちり起きるという秀才らしからぬ行動に呆れていると、彼は冷静に「次は数学だけど」(当然パンをくわえたままなので聞き取り辛い)とゆかりの先の質問に答えた。しかし今のゆかりには、次の授業のことなどよりも気になることがあって数学どころではない。
「ちょっと…昼休みまであと2限も授業あるじゃん。早弁して大丈夫なの?」
「これは間食用で昼飯とは別だから」
 しれっとのたまった彼に、ゆかりは半ば眩暈を感じる。そういえば寮でも、夕食は他所で摂ってきたと言った傍から、コンビニ弁当やカップ麺を口にしている姿を度々見かけた。放課後も、部活に行く前にはよくパンを頬張っている姿を見かける。――え、なに。ちょっとまって。ゆかりは気付きたくないことに思い当たってしまった。もしかしてこいつって、事あるごとに間食してるくせにこんなに細いわけ?
「……なんか、ムカつく。さいあく」
「…突然の酷な評価をどうも」
 くわえていたコーンパンをあっという間に胃袋に収めて、彼は苦笑した。きっとこの男は、ケーキを目の前にしてひたすら葛藤する乙女の気持ちなんて、死んだって理解できないに決まっている。




乙女心とブラックホール
(070320)