もう一度呼んでくれたら振り向いてあげる  私にとっての大切は、あなたの傍にいること。私はあなたの傍にいます。あなたがそれを望まなくても、私はあなたを見守ります。傍にいます。
 先の通りをきっちりと述べた少女に半ば呆れながら、岳羽ゆかりは盛大に溜息を吐いた。
「ねえ、アイギス。だからってこれは…ないんじゃない?」
「ないことはないであります」
「いや、だからさあ……もう、キミもなんとか言ってよ!」
「なんとかって…」
 全くこの男は。タルタロスでの冷静沈着っぷりがまるで嘘のように、今は困惑してうろたえているだけの何とも情けない醜態を晒している。
 アイギスのこの行動は今に始まったことではないが、それにしたってもう少し思考回路をどうにかしたほうがいいと思ったりするのだ。機械だからまあ多少は目をつぶるとしても、年頃の少女の外見と自我を持っているのに男の部屋に堂々と侵入したり(しかもピッキングまでやってのけた)、こうしてデート(なのかな、これは)の最中にくっついてくるのも如何なものかと思う。というか、何故か慕っている彼の言うことはきちんと聞くのだから、彼が一言ビシッと言ってやれば万事解決、ということになりそうなものなのに。
「…じゃあ、折角来たんだからアイギスも一緒に服買う?」
 はい?なんですって?
「服、ですか」
「そう。俺も岳羽に付き合わされてて――って、岳羽?」
「……ばか!」
 ゆかりは大声で叫んでくるりと身体を反転させた。ポロニアンモール中に響いた罵倒の声に驚きを隠せないといった表情の彼が、しかしどうしていきなりそんな言葉をぶつけられたのかわからないと言った様子で「岳羽、ちょっと」とかなんとか言っている。
「知らないわよ馬鹿!もういい一人で買い物する!」
 極め付けに捨て台詞を残して迅速にその場を去ろうと歩き出すと、聞き慣れた足音とこちらを呼ぶ声が聞こえた。多分そこらの通行人には乙女の純情を持て遊ぶ不埒な男とでも思われているだろう。いい気味だ。


こっちを向いてお嬢さん
(070321)